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電気工事の枠を超え、
地域・地球課題に挑む企業の姿

株式会社ソウワ・ディライト
代表取締役CEO

渡邉 辰吾

群馬県前橋市出身。大学卒業後、広告代理店勤務を経て双和電業株式会社(現・株式会社ソウワ・ディライト)に入社。2015年より現職。電気工事業を生業とする中でデンキが創り出すミライへの可能性を教育や環境分野を中心としてアート的に表現するだけでなく、群馬県及び前橋市の行政政策にも深く関与し官民共創のデザインを地域に創り出している。

http://www.sowadelight.com/#1

Watanabe Shingo_プロフィール画像

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電気工事の枠を超え、地域・地球課題に挑む企業の姿

株式会社ソウワ・ディライト 代表取締役CEO 

渡邉 辰吾

Watanabe Shingo_プロフィール画像

群馬県前橋市出身。大学卒業後、広告代理店勤務を経て双和電業株式会社(現・株式会社ソウワ・ディライト)に入社。2015年より現職。電気工事業を生業とする中でデンキが創り出すミライへの可能性を教育や環境分野を中心としてアート的に表現するだけでなく、群馬県及び前橋市の行政政策にも深く関与し官民共創のデザインを地域に創り出している。

http://www.sowadelight.com/#1

地域の電気工事会社から踏み出した世界

 当社は、私の父から受け継いだ電気工事会社です。実情として、地方の電気工事業界は持続可能なエコシステムが構築されていないのが現状です。多くの企業でスタッフ(技術者)の高齢化が進み、若い世代からの関心も年々薄れてきていると実感しています。そのような中で当社は業界の慣習にただ流されるのではなく、自分たちのアイデンティティやビジョンをしっかりと確立しようと10年ほど前に「デンキのミライにワクワクする」というビジョンを掲げました。デンキやヒカリによってもたらされる喜びや感動といった特別な価値を私たちなりに創出し、地域を私たちが照らす事によって地域の素晴らしさを再発見したりミライの象徴である子供達や地球にとって必要なヒカリをどのように照らす事が出来るかを日々模索し表現し続けています。1000年後のミライを見据えた現在の当社のビジョンである「宇宙のミライにワクワクする」は人間中心社会にのみヒカリを照らすのでは無く地球やミライにとっても必要なヒカリ、そして地球とヒトとデンキの共生を可能とする事を目的として生まれた考えになっています。事業や収益の最大化を上位概念に掲げるのでは無く地域や地球課題に対してのアクションを最重視していることが、私たちソウワ・ディライトの大きな特徴です。

 私自身、大学卒業後は広告代理店に勤務していましたが、父が創業したこの会社を支えたいという想いから転職を決めました。いわば二代目としての役割を担うことになりますが、父のマインドや表現、業界の慣習やヒエラルキーは、私にはなかなか受け入れがたい部分もありました。自分なりに「デンキ」を再解釈し、私なりの表現を自然と形にしていく中で、気づけば周囲からは「イノベーター」や「アーティスト」「変わり者」として見られるようになったのです。

 代表就任当初は相当な反発がありました。正直なところそれまでの社員の意識には、会社としてのビジョンや理想よりも心理的安全性や自身のプライドやアイデンティティを優先するという考えが根底にあり、そんな職場に異質な存在である私が方向性を示したことで反発が生じるのはごくごく自然なことでした。多くの社員は退職してしまいましたし、周囲からも今後の会社の存続を危惧する声も多く聞かれました。しかし、想いを発信し、行動を起こし続けていくなかで、新たな共感の輪も拡がっていき、新しい私たちの表現やカタチもその後に多く生まれていきました。その中でも「サステナブル・ブランド・ジャパン2022」という国際会議で登壇したことや、「世界一小さな本屋」がギネスワールドレコーズに認定されたり、2025年3月に開催予定の大阪万博に私のアーティストとしての作品がインストールされることが決まるなど、全国的や世界的に評価される活動が増えてくると、少しずつ反応も変わってきたように感じています。そして表現に対する反応や評価が増える毎に、地域の中での私たちの立ち位置にも変化が見られるようになったのです。

 地方のヒエラルキーと評価の受け入れは往々にして比例しますが、私たちの創り出した表現を決して主観だけではなく多くの方々に認知・評価され実績が付与されることで、やっと私たちの想いと周囲からの見られ方とのバランスが取れてきたと感じています。そしてそれらは従来の業界的な電気工事会社としての在り方では到底持ち得る事が出来なかった他には無い唯一無二の価値であり私たちだけに許された在り方だと思っています。

Watanabe Shingo_交流写真

地域のミライを支える企業が持つべき視点とあたり前の行動

 当社の本業はあくまで電気工事なので、電気工事の生産性や収益性を高めることは重要です。しかし、私たちが森を作ったり、子どもたちに空き地を提供したりするような非営利活動は、企業の基本的な責任、いわば素養だと思っています。こうした活動は、企業として当然行うべき行動基準だと私たちが当たり前として捉えているからです。この視点を持っていると、地域課題を解像度高く見えるようになります。そしてその課題は、行政や時代のせいにするものではなく、企業として得られた利益や資産を使って解決するべきだと考えています。CSRやCSVといった既存の枠組みだけでは、社会課題の解決には不十分だということです。企業がもっと主体的に地域課題に取り組むことで、それが地球や社会全体の課題解決にまでつながり、その視点やアクションを通じて企業としての大切なメッセージを発信する事になるだけなくそれらが本質的であればあるほど自社のミライの様々な可能性に繋がる事にもなり得ます。

 その一例として、当社は前橋市役所と政策分野での連携協定を結んでいます。「ソウワ・ディライトがやることは、全て前橋市がやること」というお墨付きをいただいているほどです。行政がすべてを前衛的に進めることは時に難しく、多くの市民の合意形成がなければ動きづらい部分もありますが、私たちは地域課題について常に自由に考え、迅速に行動しそれらをカタチに繋げています。この協定によって、当社の活動が認識・評価されると、同時に前橋市も評価されるという相乗効果が効率的に実現できる仕組みが整えられてきました。

 私たちが取り組むべきは、既存のSDGsの目標を超え、社会課題を新しく「発見」することです。自分たちが自らその感覚を養う必要があり、誰かが決めた課題に対する解決ではなく、自分たちが発見することでより身近で具体的な課題感に触れられる。 さらには、まだ顕在化していない社会課題を「創造」してアプローチしていく…今、企業にはその「社会課題創造」の視点まで求められるべきだと思っています。

Watanabe Shingo_イベント集合写真

自らがミライを切り拓きコミュニティを変える力

 現代社会は経済合理性を重視し、多くの人々が無意識にその流れに導かれています。しかし、だからこそ若い世代には、自分の目で見て信じる力が求められます。そのためには、さまざまな場所に足を運び、多くの人々と出会い、幅広い情報を収集することが重要です。さらに、自分のマインドに潜むバイアスを認識し、時にはリセットすることも必要です。既存の社会システムや固定観念から外れるためには、自分の価値観を信じ、勇気を持って行動することが大切です。

 また、社会全体が古い世代や従来の権力に支配されている状態では、若い世代が前に出る機会を得ることは難しくなります。若い人たちが活躍できないということは、世代交代が進まないだけでなく、その時代にふさわしいリーダーが不在になることを意味します。結果として、コミュニティ全体にとって大きな不幸を招くことになるのです。

 今後も、地球課題解決に向けてのリーダーシップを如何なき発揮して私たちのような小さな会社でも世界を変え大きな価値を生み出せることを、自分たちの活動を通して若い世代に向けて発信していきたいと考えています。地方や業界のしがらみにとらわれず、もっと大きな視点から世界やミライにアプローチすることで、新たな可能性が必ず見えてくるはずです。ミライは常に若い人たちの想いと行動、そして情熱の中に存在しています。